-与那原通(よなばるつう)-

糸を績み染め、織りあげる人

2011年3月4日(金)

与原(よーばる)の住宅街で、静かに手仕事をしている女性を訪ねた。
染織人(そめおりびと)、松田妙子さん。

 

「いまは糸を手績(う)みしているところで、まだ機織りにとりかかってないんですよ」

 

糸績みとは、繊維を繋いで糸にすること。伝統の上布を織る松田さんの仕事は、糸づくりから始まる。それは、自宅の庭で糸の原料となる植物、苧麻(ちょま)を栽培するところから始まっていた。

 

学生時代にテキスタイルを専攻していた松田さんが、八重山上布を学ぶため石垣島へ渡ったのは、那覇で10年ほど会社勤めをしてから。仕事で関わった人間国宝・玉那覇有公氏の紅型の中に上布に染めた作品があり、「もう一度染織をやろう」と決めた。手にした感触が忘れられなかったという。

 

「上布は麻の織物なので、さらっと軽く、なんていうか…人に媚びないような質感が魅力なんですよね」

 

石垣島では、八重山上布の第一人者、新垣幸子さんの工房で7年間師事。その後、出身地の豊見城に戻り、与那原に移り住んだのが5年前。

 

「与那原で生まれ育った連れ合いの実家で暮らすことになったんですが、私はそれまで与那原といえば“与那原テック”、“与那原そば”しか思い浮かばなくて(笑)。今は東浜にもよく散歩に出かけるし、住みやすい町だなと思います。近所のお年寄りのつながりが濃いのも印象的ですね」

 

「義母はもう亡くなりましたが、昔、おそば屋さんをやっていたんですよ。琉銀の裏あたりにあって、けっこう有名だったそうです。麺も自家製で、『与那原そばの元祖はうちだ』なんて豪語していたけれど、誰にもその技を伝えてないっていうのがちょっとね…(笑)。でも、お店を閉めたあともファンの人の注文を受けて自宅で麺を打ってたみたい。今もあちこちで年配の人達が『知ってるよ』『食べに行くのが楽しみだったよ』と言ってくれるんですよ」

 

意外な与那原エピソードを聞かせてもらったところで、お庭拝見。

 

「これが苧麻(写真右)。八重山だけでも糸がたりないから、自分で育てないとだめなんです」

 

成長した苧麻を刈り、茎の外皮をはがして中から繊維を取り出し、乾燥させたものを水にひたして、さらにそれを爪で裂き分け、撚りつぎという方法で繋いでいく…。1本の糸にかけられる手間と時間は想像以上だ。

 

目の前で糸績みを実践してもらった。

 

 

「こんなことを夜な夜なやってるの(笑)。宮古島出身の知人に手伝ってもらって50グラム、自分で績みためたものが80グラムぐらい。緯(よこ)糸だけでも着尺に400グラムは必要なので、まだまだ先は長いですね」

 

そして、糸ができたら次は染めの作業に入る。化学染料は使わない草木染め。松田さんの庭には車輪梅(しゃりんばい)など、染料になる植物もある。

 

▲(写真左)茶色の染料になる車輪梅。沖縄方言名はティカチ (写真右)藍建て(藍を染色できる状態にする準備)も行われていた

 

「沖縄の織物は先染めといって、染めた糸で織るので、機織りにとりかかるときには8割の作業は終わっていると言われます。意匠にもよりますが、織る作業は残り2割といったところでしょうか」

 

上布以外に木綿や絹も織っている松田さん。3年前までは、浦添市の新しい特産品として誕生した絹織物、「うらそえ織」の講師も務めていた。

 

「これからは販売にも力を入れていこうと思って」と見せていただいた作品の中には、上布の端切れを使ったかわいらしい手提げ(写真左)や、色のきれいな絹のショールも。

 

▲(写真左)草木染めの糸で織った自然な色合いの柄が素敵 (写真右手前)琉球藍紬と上布 (写真右奥)絹のショール。紫のショールはびわで染めている

 

「近々、アメリカに住む友人が、現地で沖縄の織物を紹介するために、機織りの様子を撮影しに来るんです。外国人には絣が人気なんですって。海外の方にも体験してもらって、沖縄の染織の魅力をもっと広めていけたらいいなと思っています」

 

細かな作業を淡々とこなしていく松田さんの手は、自身のさらなる夢も績み、織りつづけていく。

 

【取材後記】
これまで芭蕉布や花織など、観光情報のひとつとして沖縄の織物に触れる機会はあったものの、改めてその奥深さを知りました。しかも、ここ与那原で! 上布や糸績み、草木染めについて、ひとつひとつ丁寧に教えてくれた松田さんは、まさに自然体。工房やお庭を拝見しながら、とても穏やかな時間が流れました。

 

 

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※2012/10追記:現在松田さんのギャラリーはお隣の南城市佐敷にお引越しされています。

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